No.08 渡米 (試合・前編)
第八弾は試合・前編になります。
試合前日の朝、モーテルをチェックアウトし 直ぐ前のレストランでカルと合流して 試合会場であるラブロック(Lovelock)へ向かいました。
ルート80を東へ70マイル、真っ直ぐで平坦な道をどこまでも走り続けます。
やっとの思いで土漠(どばく)の中にオアシスのような町並みが小さく見えはじめ、少しづつ近づき ラブロックへ到着する事ができました。
先にホテルにチェックインし 試合会場へ行ってみると すでに数人のシューターが会場に入っており 練習試合のような競技を行っていました。
試合会場は、群庁舎のある ラブロックの中心的な場所で 周りを芝生と樹木が囲っており 屋外での試合会場としては良い場所を見つけたものだと思いました。
以前来日した事のある ビル & ナンシー・ウォーラー御夫妻(Bill & Nancy Waller )、ゲーリー & ジョイス・トライアン御夫妻(Gary & Joyce Tryon)も来ており 声を掛けてくれました。
関西のビリー島田氏が連絡してくれていた様です。
他に スタン・スウィート(Stan Sweet)、サミング・シューターのボブ・ジェームス(Bob James)、 ギル・ギラー・シニア&ジュニア(Gil Guerra Sr & Jr)、と雑誌やビデオの中でしか見た事が無い「名うてのシューター」がすでに 集まっていました。
練習風景を見ていると 特に目を引いたのは ギル・ギラー・ジュニアです。
WFDAの主流の射ち方がオープンスタイルからトラディッショナルスタイルに変わって あまりまだ月日が経っていないのに 既に0.29秒台を出していました。
(この方は、現在「Cisco Master Gunfighter」でYouTubeに動画を上げられています。)
私もダブルバルーンの練習試合にだけ参加し 3セット共に全弾ヒットできたので 多少の自信をつける事ができました。
試合初日、会場に続々とシューターが集まり 久しぶりの再会を喜んでいます、これは日本の試合前の風景と同じです。
試合の進め方としては、試合会場内にブランク専用とワックス専用のシューティングレンジを二か所設置し、最後のダブルブランクだけはメインと言えるレンジの方で行うというシステムです。
確かにこの方法だと参加人数や種目が多くても 何とか対応できますし、ターゲットの変更もやりやすい様です。
今回の試合は初日に四種目、二日目に三種目となります。
私の最初の種目は、9インチバルーンの12フィートで 炎天下での競技開始となりました。
イコールコンディションで、皆条件は一緒なのですが 日本での炎天下の試合は数える程しかやっていなかった為か 合図のランプが見え難く やはり緊張しており 頭は真っ白な状態での開始となりましたが、全弾ヒットで終わりました。
しかし、いつの間にか終わったという感じで、タイムは0.4秒代だったと思います。
次のWAX競技12フィートでは外すことを恐れ、かなり銃を前に出して(Poke)の発砲となり、タイムは0.5秒代で おまけに最終弾が不発でワン・ミスとなってしまいました。
他の二種目も終わり、初日で合計二発を外しトゥー・ミスとなりました。
初日の種目がすべて終わり、控えのテーブルで休んでいると すぐ近くにスタン・スウィート(Stan Sweet)が座っており、「オイルを持っていないか?」と話しかけてきました。
これ幸いにビデオを設置し2人の会話を録画する事ができました。
(この貴重な動画は、何とかアップしたいと思います。)
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Hidenori Colt Yamada
No. 07 渡米(試合の準備)
第七弾は試合の準備になります。
試合一週間前の日曜日に初めてブランクを射ちました。
カルの家族と友人のジム・スタンリッジ(Jim Standridge)をまじえての試合前の練習です。
普段はブランク練習用の24インチ・ラウンドターゲットにWax弾を中てての練習しかできませんが、この日は試合と同じように ブランク用の4インチと9インチのターゲットにバルーンを装着しての練習になります。
ブランクの音はかなり激しく、日本でマグネシュームを使用していた時の数倍はあり、反動さえ感じられ かなり危険を感じます。
以前、ホルスターのブーツ内で撃発してしまい、縫製部分が破れたブーツを見た事がありますが、良く理解できました。
これはかなり射ち慣れないと フリンチング(Flinching)で タイムが遅れてしまう事が推測できたので、しつこく練習させてもらいました。
試合が行われるラブロック(Lovelock)への移動日まで、あと二日。
この頃になると、練習の為にハンマーを起こす中指の皮が少しむけていました。
ダイナ婦人が、ネオスポリン(NEOSPORIN)という消毒薬を貸してくれ、この日は リノ(Rino)の近くのスパークス(Sparks)にある リノ・ガンワークス(Reno Gun Works)というインドア・シューティングレンジを探し出し、実弾射撃を楽しみました。
ここでは、フルオートが射てる為、H&K MP 5A4 を初めて射つ事ができましたが、ショート・バーストで 短く切って射っても3発目は かなり着弾が上がります。
他にお気に入りのブラウニング・ハイパワーを楽しみました。
試合が近い為 本番で使うブランクの作製に入りますが、日本と同じ手詰めになります。
45ロングコルト(LC)のケースをタンブラー(Tumbler)にかけ クリーニング後 プライマー(Winchester Primers・WLP)をプライミング・ツール(Priming Tool)で一発 々 ケースに装着します。
ケースをトレーに並べ40 S&Wのケースに擦り切れ一杯に無煙火薬(IMR 4895?)を入れ、現代の黒色火薬(GOEX・1Fg)をケースに山盛りに入れ圧縮し、後は厚紙のワッズ(Wad)で固め 最後にマニュキアで固定するといった具合です。
カルが以前出したビデオ「The Art of Fast Draw」の中で紹介している作り方とまったく同じです。
ブランクへの火薬の種類や詰め方はシューターによって違うようで、カルのブランクはかなり強力な方です。
気になっていた左手中指の傷は、薬を塗布して一日しか経っていないのに 異様に早く治りかけていたのにはビックリし、ネオスポリンという消毒薬を自分でも購入し、シューターズアイテムの一つに加えます。
約十日程の練習期間でしたが、カルの家はファンリー(Fernley)という清潔な田舎町の郊外にあるため、隣の家までの距離は300メートルはあり、たいへん静かな環境での練習ができました。
周りは土漠(どばく)で、風が吹いても何の音もせず 遠くから聞こえるハイウェイを走る車の音が微かに聞こえるくらいで、そんな中で自分の射つワックス弾の音だけが響いていました。
日本での練習ですと、やはりタイムが気になりますが、こちらでは「中てる事」だけが意識され、タイムは後から勝手に付いて来るという感じです。
明日は試合会場であるラブロック(Lovelock)へ向かう予定です。
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Hidenori Colt Yamada
No. 06 渡米(練習)
第六弾は、試合の為の練習になります。
この頃 日本国内でやっていた事は、少し火薬量の多いモデルガンで 1メートル先の風船を割る事だけで、サミングにしろ トゥーハンドにしろ はたして 自分のドロウで弾が 8フィート先のターゲットに中るものなのかは 分かりませんでした。
使用する銃は スターム・ルガーのワイドハンマー(エリカの銃)で、バレルとシリンダーは Cal 45 のアルミ製に替えてあり、弾は 45 LC(ロングコルト)のプライマー部分を広げ ショットガン・プライマーが入るケースになっており、弾頭はWAX(蝋)で推進薬無しのショットガン・プライマーの圧力だけで飛ばすようになっています。
他に、やはりスターム・ルガーのサミングハンマーが付いた銃も預かっていました。
参加する予定の試合種目と使用するターゲットの種類を記しておきます。
【種目】 スタンディングWAX競技・15フィート ( S/W @ 15' )。
[ターゲット] スタンダード・シルエット・ターゲットで、現在 WFDA- J で使用しているのと同じものです。
【種目】 ステップバックWAX競技・バルーンディスク( S/B/W Ballon-Disk )。
[ターゲット] バルーンディスク・ターゲットは、現在 WFDA-Jの支部対抗戦などで使用している大きさで、本来は真ん中に4インチのバルーンが固定でき、ターゲット自体が少し円錐形になっており、WAXがターゲットに当たれば 破片でバルーンが割れ、目視でヒットが分かるようになっています。
(このターゲットをブランク競技にも使っている映像を見た事があります。)
【種目】 スタンディングBlank競技( S/B 4”@ 8'・ S/B 4”@10'・ S/B 9”@12'・ D/B 9”@12' )。
[ターゲット] 本番の試合で使うブランクはとんでもない火薬量で、とうてい室内では射つ事が出来ない為、直径60センチ( 24inch )のラウンド・ターゲットを WAX弾で射ち、中ればバルーンでも割れている事になります。
もちろん全てトォーハンドのスラップコックショットで参加するつもりですが、最初の内は銃を止めないとなかなか中りません。
サミングやツイストでも射ってみましたが、特にツイストで安定して中てるのは難しいようです。
WAX弾の初速は速く、目視出来ない為 外した時にどこに外しているのかが分かりにくい状態です。
日本ですと7発中5発のトータルで競いますが、こちらでは5発中5発のトータルで競う為 1発でも外してしまうと順位に大きな差がでます。
とにかく 5~15フィートで、特に8フィートを繰り返し 射ち続ける事で銃と距離感に慣れる事しかありませんでした。
練習中 カルが仕事から帰り ブラシの付いたクリーニングロッドを買って来たので 使用中の銃のバレルを覗いてみると ライフリングがWAXで詰まり 見えない状態にまでなっていました。
早速 シリンダーを外し クリーニングロッドで シャカ シャカと 気持ちよくクリーニングしました、日本では出来ない行為です。
この練習期間中にカルと一緒に練習しましたが、何より驚いたのはカルがツイスト・ドロウで8フィートのシルエット・ターゲットに カチン、カチンと外さづに中て続けていく事です。
「ああー、こんな人って本当にいるんだ。」と思ったしだいです。
練習後はいつも夕食をご馳走になっていましたが、今回この「独り言」の為に 当時の「渡米ノート」を見返してみると、『米国で必要になるかもしれない英文』の項目の中に「I don’t have any likes or dislikes.」という英文を見つけました。
意味は「好き嫌いはありません」です。 用意周到でした。
Word Fast Draw Ass'n Area22-Vice Chairman
Hidenori Colt Yamada
No.05 渡米(カルとの対面)
第五弾は、カルとの対面になります。
ガレージのドアから入って来た カル・アイルリッチ(Cal Eilrich) はデッカイ男でした。
カル:「 What you doing ? 」 私: 「Practice」 これが最初の会話になります。
一通りの挨拶が終わり、今回の訪米での宿泊を尋ねられたので、明日からモーテルに泊まり 通いで練習をさせて欲しいという事、 でも今夜はここに泊まらせて欲しい事を告げました。
今にして思えば、何とも厚かましい話で、カルから見ればWFDAの会員ではあっても どこの馬の骨か分からない私を よく自宅に泊めてくれたものです。
カルは、チェアマンになったばかりだったので「これもチェアマンの仕事なのかな?」と思い込んだのかもしれません。
日本から持参のお土産を渡した時は、やはり ウエスタンアームズのコンペンセイター付きのハイキャパの受けが良く、早速 室内射撃場での試射となります。
夕食時 カルから「フリーズの意味は分かるか?」という質問がありました。
実はこの2年程前に日本人留学生が「フリーズ」と「プリーズ」を聞き間違えた事(原因の一つ)で射殺されるという事件がルイジアナ州で起こった為による質問の様でした。
私が「どういう銃を持っているんですか?」と質問すると、カルが銃の名前を連呼しだしたので、すかさずダイナ婦人が「あなた 見せて上げなさい」と言ってくれました。
そこで、食後に取りあえず6,7丁程見せてもらいました。
ファスト・ドロウ用の銃以外で、ヴァキャエロ 45LC(Ruger Vaquer)、コンペンセイター(Conpensater)の付いたコルト 1911 38 Super、以前 Bowling Pin Shootingで使っていた トップヘヴィーなコルト1911 45ACP。
これらの銃を見るとカルがコレクターでは無く、銃を使った競技が好きなんだと推測できます。
又、この年からチェアマンという事で、段ボールいっぱいのWFDAの記録写真が有り、それらを深夜まで見せてもらいながら 永い一日目が終わりました。
次の日 ルート80のイースト・ファンリーから降りてすぐのところにある カルの知り合いのスーパーエイトモーテル(Super 8)に宿を取ります。
初めてのアメリカでのモーテルでしたが、広く 清潔で年配の女性が経営されており、長期の滞在になる為 日本から持ってきた「和風のハンカチ」を挨拶代わりに渡しました。
長期ですと、初日 二日目ほどは 一泊が当時の値段で四千円ほどで、後は三千円くらいに値段が安くなるというシステムの様です。
カルは仕事へ行き、私は室内射撃場での練習になります。
室内射撃場といっても普通車が三台は入る大きなガレージで、もちろん実弾や試合時のブランクは撃てませんが、15フィートのレンジが十分に取れ 片側にはシルエット ターゲット、バルーンディスクターゲット、ブランク練習用の60センチ(24inch)ラウンド ターゲットが置かれ、もう片方には手作りの頑丈そうな机に リロードマシンが設置してありました。
机の上には、各種火薬類、プライマー、数種のワックス弾、オイルはWD-40。
以前からアメリカの人はどんな立派なウェスで実銃をクリーニングしているのかと疑問に思っていましたが、答えはキッチンペーパーでした・・・・なるほど。
昼食は近くのマクドナルドに行き、夕食まで練習になります。
Word Fast Draw Ass'n Area22-Vice Chairman
Hidenori Colt Yamada
No.04 渡米
第四弾は、渡米となります。
渡米を計画した1994年のWFDAのチェアマンは、この年からカル・アイルリッチ(Cal Eilrich)になっていました。
早速 カルに “1993 All Japan Championship” で優勝した事(優勝して無くても行けましたが)、6月にネヴァダ州で開催される “1994 World Championship” に参加したいという事、そして 試合の一週間程前から銃と弾を借りて練習をさせて欲しいという事、の手紙を送りました。
又、当時の WFDA Area-22 Vice Chairman 関西のビリー島田氏にアドバイスを受け お土産としてウエスタンアームズのハイキャパ一丁と 和風の品を数点用意していました。
しかし、カルからの返事が帰って来たのは出発の二週間前で、こちらの要望は了解してくれたのですが FAXで送ってくれたカルの自宅までの地図が 点と線だけで書かれた実に簡単なもので 一抹の不安を抱えながらの出発となりました。
熊本から韓国経由でロサンジェルスへ入り、入国審査を経て アリゾナ経由でネバダのリノ空港に着きました。
当時の HIS では ロスからリノまでの直接のチケットが取れず、その為 アリゾナのフェニックス空港で4時間程待ったせいか、出発してからリノ空港に到着するまで 実に24時間が経っていました。
取りあえず予約していた「リノ・ホリデイイン・ホテル」の送迎バスを見つけ、ホテルへと向かいました。
翌朝、ホテルをチェックアウト後 リノ空港へ戻り ハーツ・レンタカー(Hertz Rental Car)でリノからルート80を東へ33マイルの カルの住む ファンリー(Fernley)へと向かいました。
初めてのUSAでのハイウェイの運転でしたが、ふとラジオを点けると「カントリーミュージックとDJの声が。」真にアメリカを感じた瞬間でした。
イースト・ファンリー(East Fernley)でハイウェイを降り、点と線で書かれた地図と「勘」を頼りにカルの自宅をやっとの思いで見つけ出し、敷地内に車を入れ 玄関近くに車を止める事ができましたが、玄関からは誰も出て来ません。
そこで 車から降り 腰回りに何も持っていない事の意思表示をしてみると、アイルリッチ婦人のダイナ(Dinah)がスッと現れました、この時がやはりアメリカを感じた瞬間となります。
カルはまだ仕事から帰っておらず、ガレージを利用した室内射撃場で練習をしながらカルの帰宅を待つ事にしました。
最初に借りた銃はスタームルガーのシングルアクションで、カルの娘エリカ(Erika・当時中学生)の銃で、ハンマーが少しワイドになっていました。
バレルとシリンダーはアルミ製で軽量化はしてありましたが やはり重く、渡米前に日本でハドソンの金属製ブラックホークにツーハンドハンマーを付けて練習していた事が役立ちます。
そうこうしているうちに、カルが仕事から帰って来た車の音がしました。
いよいよ世界ではトップシューターのカル・アイルリッチ(Cal Eilrich)との対面になります。
カル と言えばワールドチャンピオンに何度もなったシューターで、私にとっては「雑誌かビデオの中の人」だったのですが、そのカルに会えると思うと嬉しい反面 怖いような気さえしており、心拍数が上がるのを感じました。
しかし、レベルの差は有れ 私もこの銃刀法の厳しい日本で、出来うる事を出来るだけ やって来た自信は持っており、シューターとして五分・五分な気持ちで接する覚悟をもつ事にしました。
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